『風の歌を聴け』

相原 透さんが『風の歌を聴け』を紹介されていた。
その表紙を見るだけで胸がきゅうっとなる。
懐かしくて帰りたいのに、もう決して帰ることのできない時間を思い出して苦しくなる。
16歳だった。

15年前に書いた古い日記を読み返す。

本を読む、繭の中で。
10代の多感な頃、友の薦めで村上春樹を熱心に読んだ。
不安定だったわたしは、あの独特の世界に引き籠った。
読み終えると、急に現実に連れ戻され、
ひとり締め出されたように感じ、淋しくて泣いた。
30歳を過ぎて、懐かしさから昔の歌を思い出すように読み返した。
気付かぬうちに、10代のわたしはとても影響を受けていた。
自分の物事を考える手順が、本の中の人々のそれと重なった。
本の影響力よりも、あの頃の不安定さを知った。

高速道路の脇に建っていたマンションの一室に、嫌なことがあると逃げ込み、
一日中本を読み、絵を描いて、隠れていた。
家出という意識はなかったけれど、結果として母をとても心配させた。
部屋の主はわたしを咎めることなく、ひとりでいる時間を与えてくれた。
ひとりで物事を考え、決められるようにならなければならなかった。
それを要求されていた。
泣いてばかりいた16歳のわたしにとって、
あの部屋は大人になる為の繭だった、と今思う。

17歳になって付き合ったボーイフレンドにはホテルマンの親友がいた。
ホテルマン。
周りにいない職種だった。
わたしは6年という短くはない年月をそのボーイフレンドと付き合っていたので、
その多くの時間をホテルマンの部屋で過ごした。
ホテルマンとわたしは、口が悪く、気が短く、気性の荒いところが似ていると周りから言われていた。
ホテルマンは村上春樹とトッド・ラングレンが好きだった。
あの頃のボーイフレンドと会うことはもうないけれど、ホテルマンは今も親しい。
わたしは彼の実家に歩いて5分のところに住み、週末には彼の実家を訪ねている。

一昨年、懐かしさから『風の歌を聴け』の文庫を買った。
もちろん単行本も書棚にあるのだけれど、ちょっと気軽に読みたいと思った。
相原さんの随筆から、久し振りにまた読もうかと考えながら帰宅した夜、
折しも、本の山に積んだままにしていたものを母が読んでいた。
好機。
遠出をするので持って行くことにする。

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