1段目の引き出し。

暫く使っていなかった可動式の引き出し、
1段目の浅い引き出しにはなにを入れていたんだっけ。
最近しまったものはひとつもない。
とてもきちんと入っている。
わたしは、部屋が散らかっていても引き出しの中は整理されているタイプだ。

どうしても捨てられない、というものがあれこれとしまわれていた。
子供の頃に行った野幌森林公園のパンフレット。
これにはちゃんとスタンプも押されている。
高校生の頃、下敷きに挟んでいた雑誌の切り抜き。
16歳の時に撮影で連れて行ってもらった2度目のパリで、
自由時間にふらりと入ったリボン屋さんで買ったリボンの切れ端。
学校に行く時にリボンで前髪を上げていたので、
きれいなリボンを見つけると1メートルずつ買い集めていた。
けれど、こんなに太くて立派な織りのリボンの使い道が思い浮かばず、
切れ端だけを買って眺めてはうっとりとしていた。
荷札はラッピングの時に使う。
メールなんてない頃、わたしは毎日、友に手紙を書いていた。
便箋と封筒と切手を選んで、シーリングで封をする。
一日の中の大切な時間だった。
横浜での撮影の帰りに食事をしたロシア料理のレストランで、
かわいくて堪らず、帰り際にもらったペーパーランチョンマット。
あの撮影、またやりたいなぁ、といろいろなことを思い出す。
祖母にもらった古いお札。
額によってどんどん大きくなる。
昔の人のお財布の大きさに思いを巡らせる。
おそらく最後にパリに行った時のメトロの切符。
11年前。
その前の年に行ったツェルマットで撮った写真。
ツェルマットはとてもとても好きな町だった。
あの町で暮らすことができたなら、本当に幸せだと思う。
今いる場所以外に生きる術のないことをここでもまた恨めしく思う。
果物屋さんの包装紙、どこかでもらった小さな外国旗、子供の頃の折り紙、
黒猫の本のラベル、外国からの切手、忘れた街のクーポン。
結局、全部もとに戻しておしまい。
引き出しの1段目はわたしの宝箱だった。

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