百日紅、祖母の庭。

10歳の夏、祖母と。
ハイビスカス柄のブルーのムームーは何度かの夏の気に入りだった。

夏休みには祖母の家を訪れた。
父は伯父と伯母の三人兄弟の末っ子で、
伯父のところには二人の従姉妹、伯母のところには二人の従兄弟がいた。
祖母の家で過ごす夏の数日を、わたしは一年のうちで最も楽しみにしていた。
祖母の家が好きだった。
三家族が集まることもあれば、父と母とわたしだけのことも、
わたしと従弟の二人だけのことも、わたし一人のこともあった。
決まって庭の百日紅の木の前で写真を撮った。
百日紅は猿滑、すべすべの木は猿も滑って登れない、あの庭で教わったこと。

祖母の庭。
ござを広げて葡萄を食べたり、素麺を食べたり、麦茶を飲んだりした。
丸いビニールのプールで従姉妹たちと遊んだ。
わたしたちはお揃いの麦わら帽子を被った。
わたしはキャンディーの缶いっぱいに蝉の抜け殻を集めた。
芝の緑、芝刈り機の音、草の匂い、庭の奥の物置、祖父の跡の残る懐かしいあの庭。

居間の開け放たれた掃き出し窓から風が入る。
古いラジオの音、ソファの肌触り、陶器のプードルの置物、祖母の作る紙人形。
夜は花火、七輪で焼かれたとうもろこし、写真を撮る父、従姉妹の笑顔。

そこに在る筈の記憶が薄れて行く。
それが何よりも淋しいと気付く。

百日紅を見ると祖母を憶い出す。

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