赤い実の横を歩いた。

花水木の実が綺麗に色付いて、これは秋だな、と確認する。
この輝く赤い実は食べると毒らしい。
もしも美味しければ大変だ、街路樹の下に摘み食いの人でいっぱいになってしまう。

20代の頃、表参道に在った花水木という喫茶店で時折人に会った。
恋人のようにいつも一緒にいた友と。
赤ちゃんができたから仕事を辞めるという姉のような人と。
仕事の打ち合わせで。
花の季節になるとそのことを、その人たちを憶い出す。
けれど赤い実には想い出がない。
若かったわたしは迂闊に見過ごしていたのだろう。

今日、赤い実の付いた樹の横を友と歩いた。
なんの実?と問う友に、花水木だと思う、と答えた。
食事をする店に向かって歩いていた。
目的の店は定休日でもないのに何かの都合で休みだった。
次に行った店は、お目当てのメニューを休んでいた。
仕方ない、次の店へ行こうと踵を返すと今まで入ったことのない店の看板が目に入り、
ここにしてみるか、と入ってみた。
ふたりで同じものを頼み、可も無く不可も無い食事をしたけれど、
それもいつか秋の日のことと憶い出す日が来るかも知れない。
彼女の家の近くの商店街にどんな店が出来たら良いか、と話す。
行こうとするとその店は休みであることが多いと彼女は言う。
思い当たる節が無いでも無い。
家族のような友と過ごす穏やかな午后。

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