天かすが好きなので、うどんや蕎麦にはついついごっそりと入れてしまう。そして、ふんだんに天かすが絡んだ贅沢な麺を思い切り吸い込むたび「ぶがぁっ!!」と天かすを喉に詰まらせ噴き出す。「次は気をつけよう」といつも思うのに、次にはまるで忘れていてそれを繰り返してしまう。

夢中でかっ込んでは噴き出す。あんなにも小さく軽い天かすに死に目に遭わされる。それも何度も。私は馬鹿なのだろうか? まったくもって天かすは“かす”に非ずだ。

誰かがうどんをすすって咳き込んでいたりすると「おまへもか」と同志を見つけた心地で嬉しい。
だけど、理想のタイプは? と訊かれたら、うどんを食べているときに「気をつけてね、天かす」と言ってくれる人だ。言われたい。
「ほら、ともえ? 気をつけてね、天かす。君ったらいつも噴き出すんだから、天かすってやつをさ(笑)」
そう優しく言われたい。

その日は完全に油断していた。
お昼どきにしか営業していないという天ぷら屋さんにタイミングよく訪れることができて、勢い勇んで「特上天丼」をオーダーした。

すると給仕担当の人の良さそうなおっちゃんが、カウンター越しに「これ、いる?」と天かすがわんさか入ったビニル袋を取り上げて見せるのだった。
「いいんですか!?」と目の色を変えた私におっちゃんは、「綺麗な人にだけあげるの」と得意気にかす袋をよこしてくれた。
私は、んなわけあるかい顔で一笑に付し、それ以上おっちゃん何も言ってくれるなと願った。あまりこの手の会話に付き合うと、終いには「おねーさん、よく食べそうだもんね」とか見た目にまつわるあれこれに言及されたりして食欲がかっさらわれてしまうのでそういうのは避けたい。見た目はどうあれ、人が機嫌よく生きようと努めてるのを、台無しにしてくる横槍って絶対にゆるせない。

でも、そんな懸念をよそにおっちゃんはそれ以上余計なことなどは言わず、特上天丼につゆを掛け回して出してくれた。ありがとうおっちゃん。ごめんねせっかく天かすくれたのに素っ気なくして。
そしてかっ込んだ天丼に私は「ぶぐぉっ!!」と咳き込んだ。
なんで。油断していた。油断パンツならぬ油断天かす。

おっちゃん、なんで言ってくれなかったの天かす袋をくれるとき「気をつけてね、天丼にも」って。

さて持ち帰った天かすは。大学時代に学生たちでわんさか賑わっていた弁当屋で知って以来お気に入りの、ごはんの上に天かすをまぶして天つゆを掛けただけの最安メニュー「たぬき丼」をこしらえて、おいしくいただいた。
よく混ぜてしっとりさせてから、かっ込んだりせずにゆっくり食べたからか、天かすを喉に詰まらせることはなかった。いつもそうしていればよかったのだ。

でも、カリッと感がまだ残っているうちに食べ始めて、食べ進むうちにしなっとなっていく“天かす变化(へんげ)”が好きだから、それこそが天かすの極意ってもんだと思うから、これからもきっと油断してしまう、天かすには。

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PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。