ようやく暑さが落ち着いてどこかへ出掛ける気になれたので、平日の昼間にバスを乗り継いでできるだけ遠くへ行ってみようと思った。
最寄りのバス停から一番遠くへ行けるバスは「K駅行き」で、電車で行くと3駅先のところ、バスだと30分ほどで着いた。

さて、ここからさらに一番遠くへ……となると「夜行バス 京都・大阪行き」なんてのがあった。いや、そこまで遠くへ行けちゃうと困る。明日バイトだし。と、あっさりと「できるだけ遠くへ行ってみよう」プランを終了し、かねてより焦がれていた「おひとりさまでデート気分♪ プラネタリウムへ行ってみよう☆」プランに変更した。

K駅の隣のY駅にプラネタリウムがある。子どもの頃はよく行ったけれど、最近はとんとご無沙汰。なので、この機会にこそ敢行すべき、もってこいのプランだった。しかも、調べるとあと小一時間ほどで“生解説”の回にありつけるとくれば、レッツY駅であった。
Y駅まではサクッと電車で行っちゃおう〜なんてひょひょいとちょうどホームに来た電車に乗り込んだら、反対の電車だった。ジーザス!
いつも利用している路線なのに、普段乗り降りしない駅だとこんなにも簡単に乗り間違えるものかとじぶん自身に裏切られ、小さくダメージを受けた。よく上下線を乗り間違えて待ち合わせに遅れるひとを内心で小バカにしていたけど、もうやめようと思った。旅は人を成長させる。今まで小バカにしていたひとたちごめんなさい。あるよね、誰にだってそういうこと。

そんなで多少時間をロスしたけれど、プラネタリウムの“生解説”には余裕を持って辿り着いた。
劇場の入口の手前ロビーでは、そこのマスコットキャラクターみたいな可愛いロボット的なのが「ボクの鼻にタッチして!」と何度も何度もリフレインでアピールしてくる。


館内は平日の夕方にも差し掛かる時間帯のせいか、スタッフさん以外に見渡す限り誰もいない。確実に、来場者より従業員の数の方が多い。がらんとしたロビーにキャラクターロボットの「ボクの鼻にタッチして!」という無邪気な声だけがこだまする。
時間もあるし、とタッチしてみた。すると、堰を切ったようにメッチャ質問してくるロボット。
「キミは男の子? 女の子?」「何歳?」「どこからきたの?」「どれくらい時間かかった?」「前にも来たことある?」
もう質問攻め。個人情報お構いなし! しかもタッチパネルで答えを選択すると、生真面目にレスポンスしてくれる。
「へぇ〜女の子なんだね」「近いね?」「偉いね!」「たくさん来てくれてるんだね!」
……など、その声は各配置場所に立っている4〜5人のスタッフにも筒抜けの声量ゆえ、びくびくする。
「何歳?」の質問にはMAXビビり、ヤだな答えるの……と思っていたら、パネルに映し出された回答の選択肢は「〜5歳」「6〜12歳」「13〜15歳」「それ以上」とざっくりとしていて心底ホッとした。よかった。「40歳なんだね!?」とか言われないで。

そんなロボットとのドキドキコミュニケーションを終え入場したプラネタリウムには、おじさんとカップルとカップルと私……の6人だけだった。別視点から見れば、おじさんとカップルとカップルとおばさん(私)である。なんとも贅沢な“生解説”。

リクライニングできるシートに座って空を見上げた。
横浜の港からみなとみらい方面に向かって東の空、南の空、西の空、頭の先には北の空。空がだんだんと日没時刻を迎え暗くなってゆく。一番星と月が輝き始める。それらが西の空に沈むと、夜の9時頃には3番星と4番星の火星と土星が明るく輝く。そして、満面の星空にギョッとするほどトキめいた。
これが夏の大三角形……あれが冬の大三角形……独特なやさしい調子で語りかけてくれる生解説に……私は……すーーーーー。いつの間にか寝ていた。ぐっすりと、しこたま熟睡。
目覚めるとものすごくスッキリしていた。生解説はというと、〆に差し掛かっていた。
こんなに居心地の良い居眠りは、両国国技館でダライ・ラマの来日説法を聞いたとき以来だった。ありがたや。

プラネタリウムを出ると、閉館まであと15分だった。
昔よく訪れた飲食スペースに足を向けてみる。ここでよくフィッシュバーガーを食べたなぁ、あるときは父と、あるときは同級生と……と懐かしくメニューを覗き込んでみたけれど、それはもうメニューにはなかった。

家族連れに囲まれて、今やわいわいと楽しそうにしているさっきのロボットの一角を羨ましく眺めながら、建物をあとにした。
今回の「おひとりさまでデート気分♪ プラネタリウムへ行ってみよう☆」……デート気分とはいかなかった。なぜなら、そんな妄想に浸る暇などないほどに、ひとりでプラネタリウムを満喫し切ったからだ。また訪れたいと思う。極上の眠りを得るために、だけでも(笑)。

*次回、後編「おひとりさまでもドキドキ♡ 初めてのハングリータイガー」につづく……!

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PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。