朝、駅からのバスに乗り込んだのは、純真な感じの若く初々しいカップルと私だけだった。
バスの中は静かだった。やけに静かで、なんだか違和感を感じた。
と、真ん中くらいの座席に座っていた私は、後方のカップルが気になり始めた。
これは……これはもしかしてきっと……ナンカシテル???

ぱっと後ろを振り向いてみた。
一瞬、なにか気になる風景でも通り掛かったかのように、ぱっと。さりげなく。

そして、そのわずかな目視チャンスでわかったのは、最後部の座席に並んで腰をおろしていたカップルってば、男子が女子の脇腹に顔を押し付けて眠ってらあ……ってことだった。
ふ、ふ〜〜〜ん。へええ。
もうちょっと早く振り返っていたら、もうちょっと違うことをしてたかもしれない。
でも、いい。大いにつつきあうがよろし。誰も見ていないんだから。私以外!

つつきあうといえば、少し前にまた同じバスで、かなりご高齢の女性と男性が乗り込んできて、私の斜め前方によっこら座った。
するとお二人はシャカシャカとビニル袋をまさぐり、取り出した何かをそれぞれに仲睦まじく食べだした。
「あんこが美味しいわね」「そだね」
見ると、白玉ぜんざいをかっこんでいるのだった。カップ入りのぜんざいを。

(お盛んで!苦笑)。と内心ニコリ、私にはそれくらいの心地だった。
しかし次の瞬間、二人の前に座っていたこれまたご高齢の男性が、
「車内アナウンスでも言ってるでしょ。飲食はダメ。迷惑。マナー違反だよ」
とぜんざいカップルを厳しくたしなめたのだった。

おじいさんに怒られる、おばあさんとおじいさん。
……高齢化社会って、こういうこと?

車内には少し緊張が走った。けれども、
「そかそか」「あら、知らなかったわ! 今後、気をつけますわ!」
と、その場を取り繕うも決して謝りはしない二人。
結局、最後までぜんざいを食べ切り、二人は仲良くバスを降りていった。幾つになっても、恋するカップル(?)は強気だ。

― そんなことを思い出していると目的地のバス停に着いた。
カップルに続いて私も外へと出た。

そのとき、私たちを吹き抜けていった風の匂いを、知っていると思った。
秋の匂いだ。人恋しくなる、あの匂い。夏が終わった。

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PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。