勤め先の受付に、青年が訪ねてきた。
「あのっ。落とし物届いてませんか? ニット帽なんですけど」
ストリートダンスでもやっていそうな、お洒落でカジュアルなファッションに身を包み、若く活発ではあるが、少し人見知りする風の青年だった。

「まだ届いていませんね。どんな色の帽子ですか?」
そう質問すると青年は、

ヘッドゥスピニョー、なんですけど」

ヘッ……ス……? え、それどんな色?? シルバーグレイがかったメタリックなスカイブルーとか?

ヘッドゥスピニョーの帽子」

いや、だからヘッドゥスピニョーって何だ? っつう話なのね、今。
ブランド名か何か? ヨックモックとかケーニヒスクローネ(←どっちも菓子銘柄)とかそんな感じの、ファッションブランド?

咄嗟に男子がよく着用しているヘビのマークの帽子が浮かぶ。でもあのブランド名を知らない。あれがヘッドゥスピニョーなのだろうか? 今こそマストバイなのだろうか?
いや、そもそも私は色を尋ねているんだ青年! と目を丸くしていると、

ヘッドゥスピニョーです。ヘッドゥ、スピんヌ、ヨー

ますます分からないのだった! 青年は頭のあたりで手のひらをくるくるさせている。なんのつもりなんだ。この混乱の中、しかし、青年の顔がカッコいいことだけが唯一理解できるのだった。俳優の新田真剣佑(あらた まっけんゆう)みたい。

あ、え? 待って、真剣佑。その手のジェスチャー、ストリート系の出で立ち……もしかして“ヘッドゥスピニョー”って……

ヘ ッ ド ス ピ ン 用 
(Head spin you)

「はいッ、ヘッドゥスピニョー

ニョーーー!!!

英語ネイティブな青年なのかもしれない。
もしくは、カリフォルニア育ちの本物の新田真剣佑だったのかもしれない(?)。

そんな帽子があるの初めて知ったし、へ〜と驚きだけど、まず、まずもって発音が良すぎるんだよ。新田・リエゾン・マッケニュー(Makken yu)。

いずれにしてもマッケニュー青年。私が教えてほしいのは、用途ではなく色なんだ!
大切な落とし物があなたの手元に再び戻ってくるための重要な手がかり。それが色!
お洒落用だろうが、防寒用だろうが、ヘッドゥスピニョーだろうが、あまり関係ないの。色なの、色!

今一度ていねいに訊きなおしてみた。黒だそうだ。
残念ながら、それらしきものは拾得されてはいなかった。肩を落として帰っていった。かわいそうに……。

黒いニット帽を拾った人がいたら、どうか届けて欲しい。ちなみに、ヘッドスピン用です。

LINEで送る
Pocket







PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。