前回、正体不明のじゃがいもみたいのが、きのこだった! ってことで、もうこの世の不可解なものすべての正体がきのこなんじゃないかと思われ、これまでじぶんがモテなかったのも全部きのこのせい! ってことにして安堵したところだった。

しかし、なんとアレ……きのこじゃなかった。

雨に打たれ白くドロドロと溶け出したアレを、「きのこなら溶けるハズはない」という冷静な指摘を受け、恐る恐るシャベルで半分に割ってみた。むにっという感触。パカッ。その断面は……概ね白。これは……この溶け具合からしても……???

紙粘土だった。紙粘土から作った“じゃがいもみたいの”だった。
「世界を再構築する試み」を続ける現代美術作家が、はたまた演劇人の誰かが、紙や発泡スチロール……ではなく、紙粘土で製作した何かだった。全然きのこじゃなかった。

職場柄、そういう製作物が転がっていてもおかしくない職場なのだが、いやほんとに誰がオフィスの片隅に何の目的であれを置いたのかは、いまだ不明のまま、「タヌキの仕業だろね」ってことになっている。素敵な職場だ。

とにかく、きのこじゃなかった。おばけでもなかった。
この世でいちばん怖いものは人間だというが、まさにそうだと思った。
正体不明の何かは、じゃがいもでも、きのこでも、おばけでもなく、我ら人間が作ったものだったのだ。

恐ろしや、人間。

原因がわからず突如何かが出現するのも怖ろしいが、消えてなくなるのも「ナゼ? どこへ?」感が強い。
知らぬ間に落としていたり、何も知らない人が捨ててしまってたってことなら仕方ないが、どうにもわからない場合は“神隠し”に落ち着く。
でもやはり、その大半は人間のやったことなのではないか。

小学一・二年の頃、学童保育で行った夏キャンプの写真アルバムが出来上がってきて、放課後それをめくっていた私はある一枚に驚愕した。
川辺でピースサインをするスクール水着姿の少女数名の上半身アップ写真。そのうちの少女一人は私だったが、なんかメッチャ腹が出てるのが浮き彫り写真なのである。

なんじゃこの腹は!!! と恥ずかしくって、どうしたものか、どうしたものか、とそわそわハラハラ。
こんな写真、もう誰にも見られたくない! ヤダヤダどうしよーーーう! とそのポケットアルバムをこっそりと持ち出してトイレに駆け込み、懸案の写真一枚をドキドキしながら抜き取ってめっきめきに折りたたんで捨てた。……ホッ。そして、何ごともなかったかのように、アルバムを所定の位置に戻し、残りの放課後時間を過ごした。

あの時、たぶん人生で初めて、己の私利私欲のために内緒でこっそり“しちゃいけないこと”をした。それがまさか、出っ腹写真の隠滅だなんて。

当時、その抜き取った写真のスペースにアルバム最後の一枚を差し替えて……なんて知恵はなかったと思うから、確か抜き取ったままポッカリ空いたままだったと思う。それを不思議に思った人はいるはずだ。あの出っ腹写真がない、とまで気づいた人はいないと思うけれど……。

あの一枚の写真は“神隠し”に遭ったのではない。人隠しだ。幼少おーしま隠しだった。
ゴメンナサイ。今更遅すぎる30年目の告白。

そう、モテないのも勿論、全部じぶんのせいでござんした! ゴメンねきのこ、いわれなき濡れ衣を着せた。

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PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。