「ヤー! 何コレー!!」という声が職場に響いたのでビクッとしてそちらを見やると、枯れ葉の上に乗っかった何かがそろーりと運び出されようとしていた。

「じゃがいも? 腐ったじゃがいもじゃない?」
「見た目、そうですよね? でも違うんです……メッチャ軽いんです!」
「気持ち悪っ。捨てましょう!」

誰かが棚の隅っこに“置いといた”感じの何かは、「気持ち悪い」という理由であっという間に外の植え込みに放られた。

確かに、カビカビになったじゃがいもみたいで気持ち悪かった。なのに軽いのも、気味悪かった。そして、「世界を再構築する試み」を続ける現代美術作家が紙や発泡スチロールで製作した作品かもしれないくらい意味が分からなかった。どうしたって正体不明で、放られてしまって当然だった。

でも、いったい誰がこのオフィスに持ち込んだというのだろう?
職員内でさんざん見当をつけてみたが判明せず、謎は深まるばかりだった。

帰り際、放られたアイツをじっくりと覗き込んでみた。
大人のこぶし大くらいで、表面は概ねグレーだが全体的にヒビ割れ、ボソボソと剥がれかかっており、中は白っぽい。そしてところどころ赤い。んで、たまに黄緑。どこまでも不気味を貫く。完全に腐ったじゃがいもそのものじゃないか。しかし驚くほど軽いのだ。枯れ葉の上に乗せて持ち歩けるほどにエアリー。……ドライ? 完全に腐ったじゃがいものフリーズドライ? しかしそんなもの、どこに需要が?

まじでアイツ、いったい何なんだ……?

家に帰ってもアイツのことが気になってしかたがなかった。思い切って画像検索してみた。「じゃがいもみたい」と入力。

いろんな「じゃがいもみたい」なやつがヒットした。そうして、かなりスクロールした先に、アイツに似たやつがいた。思わず画像のリンク先に飛ぶ。

クラマノ ジャガイモ タケ? ……こ、これは……きき、きのこかーい!!!

きのこだそうだ。きのこかよ。マジきのこかよ。
そんなことってあるのか、まさかのきのこオチ! その手があったか、きのこオチ!

びっくりした。ひさしぶりにこういうびっくりに巡り合った。ぐいっと次元違いなところに持ってかれる感じ。シャーロック・ホームズの推理さながらのきのこトリック!

ひとは太古の昔から、不可解で正体不明なものを「幽霊」や「妖怪」と名付けて呼ぶことで安心してきた。が、それらは本当は全部きのこだったんじゃないだろうか? と思えてきた。

天狗も、河童も、ぬらりひょんも、正体は皆、きのこだったんじゃ?
原因不明の肩こりも、偏頭痛も、きのこの仕業なのでは? そう、モテないのも。

そうか。私がモテないのは、きのこのせいだったに違いない。ならば仕方ない。
好きな人から返信がないのも、突然電話を切られたのも、私のせいじゃなかった。きのこだったのだ。安心した。

腐ったじゃがいもみたいと思ったら、きのこだったのだ。
失恋だと思ったら、きのこ。ってこともあるだろう。怖がることはない。傷つく必要はない。またやり直せばいい。

「関東梅雨入りか?」と言われている今日、“腐ったじゃがいもみたい”ことクラマノジャガイモタケは雨に打たれて溶け出し、消えかけている。切ない。失恋ばかりの私の代わりに泣いてくれてるみたいな、切ない。っていうかドロドロだ。きのこじゃない気がしてきた。……おばけ?

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PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。