妖怪 “寝テル間ニ靴下脱ガシ” −大島智衣の「oh! しまった!!」第12回




目に見えないものは存在しない。というけれど、唯一いるんじゃないか?と思うのは妖怪“寝テル間ニ靴下脱ガシ”だ。

絶対に気づかれない流れるような優しい手つきで、人が寝てる間にそっと靴下を脱がす妖怪である(想像)。
現世にて、就寝中の靴下が原因で足が火照りすぎて死んだ。
その恐るべき無念さは、やがて怨念となり、妖怪として化け、夜な夜な人間の靴下を脱がしにやってくるという。おおコワい。
コワいけど、人間にとっては結果優しいことをしてくれている、憎めない系の妖怪である(すべて想像)。

そんな妖怪の仕業か否か。冬場、靴下を履いて寝ると、朝には確実に裸足になっていて、靴下はベッドの下に落ちている。
しかし、その靴下も、方っぽしか見当たらないこともまま多い。
そういうときは、布団の中を「ここか? ここか!?」と必死に探すほかない。
たまに全然見つからなくって、「これはまた、“精霊 脱いだ靴下どこかにやり人(びと)”の仕業か!?」とくまなく探さねばならない。まったく骨が折れる。

そろそろ発売されてもいいのではないだろうか?

『寝てる間に絶対に脱げない靴下』

……されねっか!
絶対に発売されないよね、そんな靴下。需要がないもの。
そして不可能だもの、絶対に脱げないなんて。

足首のところでぎゅーッと締め付けたところで、窮屈で眠ることもできない。
ならば! と、全身タイツ型の靴下にしてしまうのはどう?
……や、それはもはや、靴下ではないよね。それは、全身タイツ。まごうごとなき全身タイプのタイツ。あるいはロンパースね、赤ちゃんがよく着てるやつ。ボワボワした生地で作ったら。可愛いよねアレ。

というか脱げてもいいンだ。なんか寝苦しくて、脱ぐ必要があるから脱ぐのでしょ? これが脱げなかったら皆んな妖怪“寝テル間ニ靴下脱ガシ”にすべからくなってしまう! それはもっとコワい。

むしろ問題なのは、布団の中に紛れ込んで見つけ出せなかった靴下が、掛け布団をベランダに干した際にポーンと下の階の庭に落ちてしまうことだ。うげっ! 頭下げて取りに行くのめんどくさー。

そういうときにこそ、発売されないものだろうか?

もう掛け布団から離れない!
『掛け布団一体型 靴下』
〜サーフボードみたいに〜

足首を繋ぐ輪っかが付いているサーフボードみたいに、掛け布団からヒモが繋がれ、その先に靴下が付いている。靴下は付け替え可能で全4色。赤・黃・カーキ・ターコイズブルー。今夜限りで代引き手数料はジャパネットたかたが負担します! 今ならさらに4色お付けして、お値段据え置き1万9800円! はぁっぴゃくえんですよ!!!

即完であろう。

ホントいつの間に脱いでいるのだろう……靴下よ。

片足の親指で、もう片足の靴下を脱がすなんて器用なこと、なぜ寝てる間に無意識にできてしまう。それができるなら、寝てる間に人間は実は結構何でもできてしまうのではないか?
寝てる間に確定申告、とか。手取り3万円のギャラを貰うには源泉徴収税額込みで幾らの請求書を作ればいいかの計算とか。(してて! いっそ寝てる間にしてて!!)

そんなとこ器用じゃなくていい。不器用でもいいから恋をして、ちゃんと恋人がほしい。

〜〜〜朝、目を覚ましたら、隣で寝ていた彼が寝ぼけまなこで、

「おはよ。昨日の晩、見ちゃったよ。キミが寝ながら靴下脱いでるところ」

と微笑んで、私は「ヤダー」と照れながら靴下を探すため起き上がろうとする。と、バッと布団に引き戻され彼にぎゅうっと抱きしめられる。そして彼は耳元でこう囁くのだ。

「もう、靴下なんか履いて寝なくていいんだよ。これからは僕がキミの足を暖めるから」

キャー!!! 見えないお化けや妖怪なんかより生きてる人間が一番コワいって本当ね、これは嬉しい悲鳴だけどキャー!!!

以来、妖怪 “寝テル間ニ靴下脱ガシ” は二度と現れることはなかった。めでたし、めでたし。〈完〉〜〜〜

って、なってほしい。
このままいつか、寝てる間に足が冷えすぎて死んで、妖怪“寝テル間ニ脱イダ靴下マタ履カセテアゲタロ”として全国津々浦々、化けて出ないうちに……!

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PROFILE執筆者プロフィール

大島智衣

エッセイスト・脚本家/おもに恋と'じーん'について ✐エッセイ『男子発言ノート』『好きにならずにいられてよかった』他 ✐脚本協力『獣道』内田英治監督 ✐脚本『花の名前』利重剛監督、BOYS AND MEN『キスのカタチ』/放課後の再放送ドラマ育ち。実家暮らし独身。おいしそうに食べます。