本好きの子供~書店員~出版社へ|相原くんの「これ、読んでみる?」64


紹介本:『街の声を聴きに』(著者:利重剛 1998年刊行)

利重さんのエッセイ『街の声を聴きに』の刊行は1998年。今よりもずっと若い利重さんがここにいる。「夜明けを待ちながら」「東京を離れる友へ」は何度も読み返す。良いエッセイだ、といつも思う。

その時は本厚木の書店で店長をしていた。連載中も読んでいたエッセイが本になるということで大いに張りきって「たくさん売っていくぞ!」と思っていた。100冊注文した。入荷は1冊だけ。愕然として問い合わせると、ベテランの取次担当者が言った。「配本っていうのは、そういうもんだから」と。あの時の憤りは忘れられない。「そういうもんだから」「決まりだから」「今まで、そうだったから」それじゃ、永遠に良くならないじゃないか、と思った。
悔しくて、悔しくて、書店員の先輩に気持ちを話してみた。先輩は最後まで聞いてくれて「お前は間違っていないし、正しいよ。だから、自分は絶対にそういうことを言わないように本の仕事をしていけよ。正しいことは大変だからな。で、5年たっても、10年たっても今の気持ちが変わらなかったら、いいんじゃない?」と。今、2019年。本好きの子供が書店に就職して、それから縁あって出版社で働くようになり、全国仕事で動いている。20年以上たったけど、あの時の“自分”がいつも見ているような気がする。ちょっとでもカッコつけたり、調子にのったりすると、貧しくて、無力で、悔しがってばかりいた“自分”が睨んでいる。ひたむきに、ひたすらに本の仕事、続けていきたい。『街の声を聴きに』を本棚から取り出すと、いつもその時の“自分”に会える。

今回で、「カタヨリ荘」でのブックレビューは最終回。
相原透は、本の紹介、著者インタビュー、続けていきます。
また、どこかで会いましょう。
ありがとうございました。
2019.03.31
  相原 透










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相原透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子