後編はいつ?の問いに、四谷さんは笑って答えた|相原くんの「これ、読んでみる?」㊾


紹介本:『四谷シモン前編』(著者:四谷シモン 2004年刊行)

四谷シモンさんの存在を知ったのはいつだったのか、もう覚えていない。
状況劇場の舞台に立っていた頃のことは、すでに伝説のように語られていて、女優・モデルの小林麻美さんが四谷さんの人形について語っていた文章を読んだこと、故・原田芳雄さんと共演したドラマ、故・久世光彦氏の演出のドラマに医師の役で出演していたのを観たのが最初だったのか…、いや、私の5つ上の従姉(いとこ)が原宿にある四谷シモンさんの人形の学校に通っていたので、それが最初だったのか…やはり思い出せない。

新宿の紀伊国屋書店の入口あたりで、人と待ち合わせをしていた時、上の階にある紀伊国屋画廊で人形展がおこなわれていたのを貼ってあったポスターで知り、ふらりと寄ってみた。そこには四谷シモンさんもいらして、少しお話ができた。四谷さんの本、文章の感想を話したと思う。四谷さんは「へぇ~、そう。そう思ったのね。嬉しい」と笑いながら聞いてくれた。『四谷シモン前編』の帯には“この本には、僕の人生の「前編」がつまっています 四谷シモン”とあって、その後何年も立つけれど後編は一向に出なかった。「後編はいつ、ですか?」とお聞きすると、パチンと手を叩いて、四谷さんは答えた。「後編はね、僕が死んじゃった時!」と。四谷さんと私は顔を見合わせて笑った。私は「それじゃ、後編は出ないほうがいいです」と言うと、「でも、死なない人間はいないから」とまた笑いながら言った。

次の日の早朝、小雨が降っていた。千代田線に乗っていると、向かいの席、真正面に四谷シモンさんが座った。傘を持っていなかったのか、少し濡れた服や、眼鏡をハンカチで拭いていた。目が合い、「あれ!昨日の…!」となった。「縁がありますね。僕は滅多にこんな早朝、電車に乗らないから」と四谷さん。「それでは、また」とお互い、挨拶して2日間連続の出会いは終わった。あれから10年以上の時が過ぎたけど、四谷シモンさんは元気で活躍し、「後編」は出ていない。

2008年、9月。小田急線沿線の路地裏にある、はじめて行った酒場で、私がある編集者と吞んでいると、気づくと、四谷シモンさんが少し離れたカウンターで、常連さんと思われる人たちと楽しそうに呑んでいた。そういえば、酒場なのに、四谷さんの本が置いてある。お店の人に聞くと、四谷さんはご近所に住んでいて、よく来られるとのことだった。私は、お声はかけずに、編集者と一緒にお店を後にした。「四谷さん、今日も美味しいお酒でありますように」と心の中で言いながら。










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カタヨリ荘

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子