深夜、下北沢のバーで、坂田明さんと会う|相原くんの「これ、読んでみる?」㊹


紹介本:『風の歌を聴け』(著者:村上春樹 1979年刊行)

30年前、あるラジオ番組に出した手紙がきっかけで、出会ったラジオ局のディレクターから、「どんなラジオ番組を聴きたい?誰に出てほしい?」と聞かれたことがある。
当時の私は、岡本喜八監督、鮎川誠さんの名前を挙げ、そして作家の村上春樹さんのロングインタビューができたら最高だ、と答えた記憶がある。
ディレクターは「おそらく、村上春樹さんはラジオには出ない。いや、ラジオだけでなく、メディアそのものにも出ないと思う」と答えた。私も、そのディレクターも村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』が大好きだった。
時は過ぎ、そのディレクターの後輩にあたる方と出会った。その人こそ、先日東京FMで、『村上ラジオ』を創った人、N氏である。ここ数年、私はN氏と酒を飲み、珈琲を飲む、出版社と放送局という遠くて近い、近くて遠い関係を楽しみながら、雑談をしている。仕事をするわけでもなく、何かをカタチにしようということもない、“今、何が面白くて、興味があり、心震えるような本、映画、番組、絵、写真、そして互いが惹かれる人物について”話をするという至福の時間を繰り返している。
ある日、N氏と飲み「村上春樹さんのラジオ番組作るから、聴いてください。絶対に実現するから」と別れ際に言われた。
「なぜ、飲んでいる間は言わなかったのだろう・・・。情報解禁のことがあったのかな?でも、Nさんは有言実行の人だから・・・でも、村上春樹さんが本当に声を電波にのせるのだろうか?」などと考えながら歩き、ひとりでもう一軒、下北沢のバーへ。
入ると、バーのオーナーが私の名前を呼んだ。「よかったら、こっちへ来て飲まないか?」と。滅多に人を紹介しないオーナーが紹介してくれた人、サックス奏者の坂田明さんだった。深夜のかなり深い時間まで、オーナーと坂田さん、私で飲み、話し、また飲んだ。
映画『風の歌を聴け』(大森一樹監督、出演:小林薫、真行寺君江)について、大いに話した。坂田さんは、その映画に出てくるジェイズ・バーのバーテンダー役だったから。坂田さんの役の台詞を、私は覚えていた。「こういう夜もあるんだね」と坂田さんは上機嫌で酒を飲んだ。Nさんが作った『村上ラジオ』は、その夜から数週間後、オンエアされた。

村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』、村上春樹作品の読者の中でこの作品がいちばん好きだ、という人も多いようだ。
私は、30年ぶりに読んでみようかな?いや、やっぱりやめておこうかな?どうしょうかな?と本棚の前で背表紙を眺めている。










ABOUTこの記事をかいた人

カタヨリ荘

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子