『二度とない青春を描く』

紹介本:『四月になれば彼女は』(著者:川上健一 集英社文庫 2009年刊行)

「五木寛之さんの小説が好きで、五木さんが選考委員をしているという理由だけで、応募した小説が新人賞を受賞、それが作家デビューのきっかけです」
そんなふうに、川上健一さんは語り始めてくれた。
「でも、東京にいて、小説を書きながら、なんだかひどく疲労して、だんだん書けなくなって、体調も悪くなり、一時期、執筆を辞め、田舎へ行き、ほとんど自給自足のような生活をしていました。結果、体調もどんどん良くなり、11年ぶりに『翼はいつまでも』を発表、現在につながっていきます」
私は、本の刊行は著者からの“手紙”と思っている。書かなかった(書けなかった)時間の著者の存在も、苦労も、読者は知らない。
しかしながら、川上さんの田舎暮らしの時間のお話は、ストレスもなく、豊かで、実に楽しいお話ばかりだった。
「当時は、今のようにパソコンやインターネットも普及してなくて、ケータイ電話もない時代。手紙、電報(笑)、電話くらいしかなくて。でもそんな時間の流れが心地良かった」と。

川上さんの小説の映画化の話題へとなった(インタビュー時は『雨鱒の川』、『アオグラ』の2本。その後『渾身』も映画化)。
私が『アオグラ』(原作:『四月になれば彼女は』、タイトルはアメリカン・グラフティのアメグラから、青い青春グラフティ、または青森の青春グラフティとも言われている)が、好きです、爽快感ある映画でした、と伝えると嬉しそうに話しだした。
「主演の内田朝陽くんは、大きくて僕と身長が同じくらい。撮影現場に行って、少しだけ話しました。僕にとっても好きで、大事な映画になりました」

主人公・沢木は高校時代野球部のエースだった。肩を壊し、地元の工務店への就職が決まっているが、何か煮え切らない。高校を卒業し、明日は就職という1日を、それぞれ別々の進路を決めている、希望と不安が入り混じった想いの友人たちと共に過ごす、濃密な24時間を描いた物語。誰にでもある、2度とない青春の1日を鮮やかに切り取った傑作である。小説も、映画も観てほしい。

インタビューのお礼の「丸善のカレーの缶詰セット」をお渡しした。
「僕は・・カレー大好物なんだよ!」その日、最高の笑顔だった。










ABOUTこの記事をかいた人

カタヨリ荘

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子