『想いを越えた“何か”、ホノカアボーイ』

紹介本:『ホノカアボーイ』(著者:吉田玲雄  幻冬舎 2008年刊行)

先日、DVDで久しぶりに映画『ホノカアボーイ』(2009年公開作品)を観た。観終わった後、本棚から原作を取り出し、ゆっくり読み返した。この本は、著者から贈っていただいたのだ。そうか、もう10年が経つのかと思った。
10年前、仕事の帰り、ビールを飲もうと酒場に行くと、その店の常連さんから「紹介したい人がいるの!」と声をかけられた。“吉田カバン”の吉田玲雄さん(隣には綺麗な婚約者と、吉田さんのお母様も一緒)だった。「初めまして」の挨拶の後、玲雄さんが話し始めた。以前、書いたエッセイが、新装版として、幻冬舎から出版されるという。そして、映画化も決まったと。私が「再刊行もすごいのに、映画化も?もしかして(玲雄さんはカッコイイので)主役もやるのでしょうか?」と聞くと「いやいや、とても」と笑う玲雄さん。
とてもいい笑顔だった。映画『ホノカアボーイ』の主演は、岡田将生さん。共演は倍賞千恵子さん、長谷川潤さん。エッセイの中に出てくる登場人物、小泉今日子さんが、主題歌『虹が消えるまで』を歌う。

玲雄さんとの出会いから、数か月後、新装版『ホノカアボーイ』が贈られてきた。
書きたい気持ち、伝えたい想いが、いっぱいつまった本だった。
作家という職業になりたくて書いている、本を出版したくて、だから書いている文章ではなく、伝えたい思いそのものを書いている、かっこつけていない文章だった。
しかし、個人の日記では作品にはならない。想いだけでは、誰も読まないのだ。
『ホノカアボーイ』が、読んだ人の気持ちをとらえ、動かし、映画化までされたのは、きっと玲雄さん自身の想いの強さと同時に、才能だと思う。自身におこった稀有な経験を、伝える術を玲雄さんは持っていたのだと思う。
エッセイを読み終わり、感想を手紙に書くと、玲雄さんから、連絡をいただいた。
雑談の後、私は言った。「軽い気持ちじゃなくて、本当に2冊目、これから玲雄さんの書く本が読みたいですよ」と。すると「自分の中に「ホノカアボーイ」を越えるくらい、溢れ出すような、書きたいという欲求が出てきたら書くと思います。そうでなければ、書いてはいけない気がするので」と玲雄さんは言った。
あれから10年、玲雄さんは本を出していない。簡単にエッセイを書いてはいけないのだ!と『ホノカアボーイ』を手に取るたびに感じ、律する気持ちになる。










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相原 透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子