『ユーモア、好奇心、信念、遠藤周作氏の優しさ』

紹介本:『ほんとうの私を求めて』(著者:遠藤周作 集英社文庫1990年刊行)

遠藤氏が、まるで読者に(女性に)ささやくように、語るように書かれたエッセイである。「悪の匂い、幸福の悦び」、「悪女と思われる方は手紙をください」、「小さな憂うつ」、「甘い夢」等、この題から、どんなことが書かれているのか?
興味深い内容が続いていく。30年ほど前に刊行、現在もロングセラーのこのエッセイ集は、遠藤氏特有のユーモアや、精神性、そして優しさを感じさせてくれるのだ。

遠藤氏の語りといえば、たった一度だけ、遠藤周作氏の講演を聞きに行ったことがあった。巧みな話術と、教養で、満員の会場を常に沸かせていたが、覚えている内容は、ご自身の病院での出来事と、まだ20代半ばの「お手伝いさんの死」について話されたことだった。
遠藤氏自身の入院での検査、及び治療の際、不安と、痛さに顔を歪めると、看護士さんが遠藤氏の手を握り、寄り添ってくれたという。看護士さんは、自分は不安や、痛みを消すことはできないが、「お気持ち、わかります」、「私はここにいますから」「決して、ひとりではないですよ」と、言葉をかけてくれたという。
その行為が嬉しさをとおり越し、驚きであり、その気持ちでどれだけ検査、治療の苦しさが和らいだことかと。そして、遠藤宅で働いていた、お手伝いさんが 病に倒れ、亡くなったことへの悲しさ、無念さ。そのことがきっかけで、延命治療の方法論について考える「心あたたかな医療」運動を始めたことを語られた。
遠藤氏の小説、エッセイを読むたびに、この時の講演での話、表情、声を思い出す。
遠藤周作氏の作品ならば、『白い人』、『沈黙』、『海と毒薬』・・・と読んでいただきたい作品ばかりであるが、著者の信念が明確に書かれている、このエッセイもぜひ読んでいただきたい。










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相原 透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子