『事実、想像、普通の人々』

紹介本:『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』
(編集:ポール・オースター 翻訳:柴田元幸 2005年刊行
*2008年 ナショナル・ストーリー・プロジェクト(Ⅰ)(Ⅱ)で文庫化)

「幸せな本だなぁ」という一言がこの本の感想のすべてである。
ラジオ局に送られたリスナーからの寄稿を、作家のポール・オースターが精選し、編集した179の物語が集まった作品集。
書き手は、郵便局員、商船員、トロリーバスの運転手、ガスと電気のメーター検針員、自動ピアノの修復職員、犯行現場清掃業者、ミュージシャン、会社経営者・・・・そして主婦や農場経営者、元軍、等々。年齢は20歳になったばかり~もうすぐ90歳まで、これらの寄稿者の物語をオースターは10のカテゴリーに分類、バランス良く構成している。
“送っていただいた原稿は、ポール・オースターが必ず読む”という約束のうえで安心、かつ真剣に、たくさんの人が寄稿した。

もちろん、オースターの精選力、編集力もあるが、すごいのは、そのどれもが“単なる手紙”になっていないところだ。日本で、いやどこの国でも、このスタイルだけを真似れば簡単に素晴らしい本が出来る!というわけではない。たいていは、私の話しを聞いて欲しい!という、“想いのつまった手紙”ばかりが集まってしまうだろう。やはりポール・オースターのラジオ番組を聴いているリスナーの層の厚さを感じる。《自分の物語を書くとい主観的になってしまう文章に、客観性を忘れず、書き手でありながら 編集者の目をもつ》ということ。この本を読んだある作家が、「良質な文章を送った書き手たちが、同時に読み手でもあるということが、この国のオースターを初め、作家たちのレベルをあげているのだろうと語っていた。

様々な年齢、職業の寄稿者たちは、オースターに読んでもらい、選ばれ、本になったことを、どんなに喜んでいることだろう。オースター自身も実にやりがいのある、刺激的な仕事だったと、まえがきに記してある。そして、この本を読んだ誰もが現実にはおそらく話すことのない書き手たちの“本当の声と言葉”に出会えた喜びを感じているだろう。普通の日々を送る、生活者ひとりひとりの文章と出会ってほしい。










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相原 透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子