『一生に一度、復刊させることができる魔法のカードを持っていたら・・・』

紹介本:『カラ 孤独なハヤブサの物語』(著者:J.F.ガーゾーン 翻訳:沢木耕太郎 1995年刊行)

「カラは、つややかで、たくましく、美しいハヤブサだった。」この文章で始まる物語を何度、読み返したことだろう。
生きるために、狩りをし、自分の身は自分で守ってきた孤高のハヤブサ、カラ。
いつものように、空腹を満たすため、獲物をしとめようとした時、突然、カラの内部で“何か”が起こり、狩りを止めてしまった。これは、<生きるためには、殺さなくてはならない>から、<二度と殺すことはすまい、たとえ生きるためであっても>の始まりであった。生命を尊く、愛しく想うようになったハヤブサのカラは、激しい生存競争の世界で、それまでとは違う思考、行動、生活を自ら選んでいった。そして、カラは・・・・・。

カラが、自らの意志で、苦しみながらも、傷つきながらも、生き方を変えようとし、そうして得たものが、かけがえのない大切なものであればあるほど、この物語の終わりが怖かった。悲劇的な、取り返しのつかないことが、カラの身に起こるのではないかと、読みながら不安でならなかった。
しかし、そうではなかった。潔く、透明感に満ちた、決して忘れることはない終焉が、カラの物語の終わりだった。

訳者あとがきにて、沢木氏は「この物語は、生き方を変えるということの危機の物語だと、認識している」とある。
生き方を変えるということの喜びと苦しみ、発見と喪失。
生き方を変えたカラを、どう思うか。この物語の本質をどう考えるか。
読んだ人ひとりひとりが、考え、答えていくことが、この本の最大の魅力である。
私は、自ら生き方を変えた、カラを“苦しくなるほど尊く”、“痛いくらい愛しく”想う。
そしてこの物語を、深く理解し、もっともっと好きだと言える自分で在り続けたいと願った。
この本、『孤独なハヤブサの物語』は、2001年文庫化され、残念ながら、単行本、文庫本共に絶版となっている。一生に一冊、復刊することができるカードがあるならば、迷うことなく私は、この本のために使うだろう。










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相原 透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子