『諦めない精神、作家・はらだみずき』

紹介本:『最近、空を見上げていない』(著者:はらだみずき 角川文庫2013年刊行)

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その職業の人が、その職業を舞台とした映画やドラマを見る時、「嘘でしょ!そんなことしない、そんな奴いない」と思うことが多々あると思う。私も出版業界が舞台のそれらを見る時、とても冷静ではいられない自分がいる。
「そんな姿勢で本持っていたら腰悪くするよ」「バックヤード(店の奥にある事務所や返品作業所)がそんなに広いわけがない」「編集者はなんでそんなに軽い奴ばかりなんだ?」「営業はただ声が大きい奴ばかり?」等々。
しかし、作家・はらだみずき氏の作品の出版関係者、書店員の描写には違和感がない。
その動き、会話が、まさに腑に落ちるのである。
『最近、空を見上げてない』の主人公は、出版社の営業・作本龍太郎。彼を中心に書店の店長、女性店員、他、粛々と働く人たちが出てくる。彼ら彼女たちは安易に夢なんか見ない、毎日を働いて生きていくだけ。それでも誰にでも心の奥底にある、自分にしかわからない小さな希望や、譲れない想いがある。現実を知った者が、それでも諦めない精神で生きている、直向きさが、はらだみずき氏の小説の魅力だ。
営業マン・作本が、本を通じて出会った様々な人たち、書棚の前で静かに泣いていた女性書店員、編集部と営業部の確執に悩む男、好きな女性を追いかけてきた北海道出身の男、読んでいてその人物の顔が浮かび、声が聞こえてきそうなくらい描写が秀悦。

「サッカーボーイズ」シリーズがロングセラーとなり、サッカーを題材にした小説が多い著者であるが、様々な職業、人物を描いてもらいたい。読みたいのだ。
作家、はらだみずきさん(念のため、男性作家である)は、新人賞を受賞した作家デビューでもなく、現在も文学賞受賞はない。しかし、無冠の帝王であった佐藤正午さんが60歳を過ぎて直木賞を受賞した例もある。賞の受賞はその時の縁だと思うが、はらださんには、いつか文学賞を受賞してほしい。そしてより多くの人たちに、その直向きな作品たちが届くことを願っている。










ABOUTこの記事をかいた人

相原 透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子