『サウナ、バーボン、白竜さんの笑顔』

紹介本:『誰の為でもない』(著者:白竜 毎日新聞社 1999年刊行)

「白竜さんに会いたいな、会ってたくさん話がしたいな」とその当時、ずっと思っていた。
以前からミュージシャンとしても好きで、ライブにも行き、アルバムも聴いていた。
北野武監督のデビュー作『その男、凶暴につき』の殺し屋役の白竜さんの存在は鮮烈だった。
白竜さんがある作家と対談をした時、その作家の友人が入院中で、いつも白竜さんの歌を聴いている、と聞くと、翌日、ギター持参で病室を訪ねたという記事を読んだこともあった。
歌も、演技も、存在も、気になっていた。

『誰の為でもない』は、白竜さんのライフストーリー。音楽を続け、役者となり、内田裕也さん、松田優作さんといった強烈な人との出会い、時にはぶつかりながら、迷いながら、生きてきた半生を語っている。何もかもうまくいかない時は、自分の心を静寂にして、時を流し、いい波(いい時間)がやってくるのを待つ、といった観念的とも言える言葉も印象的だった。この本は“人と人との縁”について書かれている本だと思って読んだ。人との出会いを、どうしていくか、どう捉え、自分の中で消化し、その人とつきあっていくか、深くなっていくか、または離れていくか、そんなことも読みながら考えた。

ある日、ひとりで芝居を観に行き、その後は友人と待ち合わせて飲みにいくまでの時間、サウナに入って汗をかこうと思った。久しぶりのサウナは気持ちがいい。一杯目のビールは最高だ、などと考え、ふと顔をあげて横に座った人を見た。白竜さんだった。
サウナで白竜さんと会うとは、夢にも思っていなかった。が、最高にプライベートな時間なので、もちろん話しかけたりはしない。しかし・・・白竜さんの方から話しかけてきた!
「雨も止んで、良かったですね。よく、ここ(サウナ)来るんですか?」と白竜さん。
「えぇ、ここは熱さがちょうど良くて、好きなんですよ」と私。
その後、どうでもいい雑談をした後、ふいに白竜さんは言った。
「あなたは何を生業(なりわい)としている方ですか?」と。
(うわ!生業(なりわい)なんて言葉、今までの人生であんまり使ったことないな!)などと思いながら、当時、書店員だったので、「本屋で働いています」と答えた。
「え、本屋さん? 本当? 実は(自分を指さして)本出してるんですよ」と。
「あ、ウチの書店でも積んでいます。僕がレジに入っていた時、若い女性が買っていきましたよ。もちろん、僕も読みました」
すると「え!俺のこと知ってたの!早く言ってよ!」と笑顔の白竜さん。いい笑顔だった。
「白竜さんの本は、人と人との縁の本ですよね」と念願の感想を本人に話すことができた。
白竜さんはちょっと嬉しそうに聞いてくれた。

それから、数か月が過ぎ、ある酒場で呑んでいると、突然、白竜さんが入ってきた。
再会!そして白竜さんは、私の顔を見ると、「あ、サウナの人!」とひと言。
何を飲んでいるのか、と聞かれたので、「アーリータイムスです」と答えた。
白竜さんは、酒場のスタッフに言った「こちらに、アーリーのボトル一本!」と。
その時もいい笑顔だった。

 


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相原 透

相原 透(アイハラ トオル) 東京生まれ。20余年、都内書店勤務。その後、出版社に転職。 週刊朝日、IN・POCKET(講談社)、銀座百点、公募ガイド 等  雑誌に書評、著者取材・原稿、寄稿多数。 講談社文庫『光二郎 分解日記 相棒は浪人生』(著者:大山淳子 2017年刊行)の解説を書く。 『カタヨリ荘』の住人になれて嬉しくて仕方がない毎日。 好きな作家:池澤夏樹、沢木耕太郎、桜木紫乃、伊吹有喜、大山淳子、柚月裕子