毛。2

「先日、なんで年を取ると長い眉毛が2、3本生えてきたりするのかって話をしたじゃないですか」
と、僕の髪を切りながらウチダさんが言う。
「ああ、したした」
「その後で思い出したんですけど、その長く生えるヤツも、左右で伸びが違ったりするんですよね」
「ほーう?」
「これ、長いから切っておきましょうかって、お客さんのそういう毛を切って差し上げることがけっこうあって、それでまあ、気がついたんですけどね。で、これは何かの違いがあるのかなと思って、ふと、お客さんの視力を聞いてみたんです。そしたら不思議なことに、視力が悪い目の方が伸びが早いんですね」
「ええーっ?」
「ホントなんです。だから、左右を比べてみて、毛が長い方を指差して『こっちの目の方が悪いですか』って聞くと、まず当たりますね」
「おお。すげー。美容師だけがわかる人間の秘密」
「そんなこと知ってても、何にも役立たないですけどね」
「役立たないねー」
「でもやっぱり弱い方の目を守ろうとしてるんですかね」
「長い毛が2、3本増えたからといって目が守れるとは思えないけど、なんとかがんばって守ろうとしてるんだろうね。けなげだね。眉毛。ちょっとドラマを感じるね」
「感じますか」
「役立たないっていえばさ、とても役立つとは思えない特殊能力を持つ人ってのを前に考えたんだけどね」
「はあ」
「全身にぐっと力を入れると、その間だけ髪の毛が10cmほど伸びる男とか」
「あ、でも変装には使えるじゃないですか。探偵とか出来そう」
「さらに渾身の力を入れると白髪になる」
「いいですね」
「あと、ヘソで茶を沸かせる能力。でもこれ、いちいち脱がなきゃいけないし、やかんも乗せにくいから、かえって面倒なの。なのにキャンプとか行くと、『お前あれ出来んだろ、沸かせよ』とか言われちゃう」
「あ、その能力は欲しくないなー」
「それからさ、これは能力というより弱点なんだけどさ、豆腐の角に頭をぶつけると死んじゃう体質の一族」
「危険ですねー」
「敵はそれを知っていて、大量の豆腐を武器に投げつけてくる」
「うーん。やっぱりその中だったら、力入れてる時だけ白髪になるのがいいですね」「ん……?」
「なんですか?」
「白髪ってさ、白い物質が根元から出てくるから白髪になるの?それとも黒い物質が出てこなくなるから白髪になるの?」
「なんかその疑問、前にも聞いたような気がしますが、まだ考えてたんですか。それは黒い方じゃないですか。黒くなるべきメラニン色素が老化で機能障害を起こして毛に供給されなくなるんだと思いますよ」
「それじゃあさ、恐怖のあまり一晩で白髪になったみたいな話はさ、白い成分がにゅーっと噴き出したんじゃなくて、逆にメラニン色素がすーっと頭に吸い込まれちゃったってこと?一晩で?」
「いや、たぶん、一晩で白髪になったっていうのは、都市伝説かと。お客さんの中で、一ヶ月後に髪切りに来た時に完全に黒から白になってた人って会ったことないですからねー」「……」
「どうしました」
「『宝毛』ってあるじゃない。ほっぺたとかに1本だけ細―くて長―い毛がさあ」
「……まだ続けますか。利重さん。僕、もう耳毛が生えそうです」