ごあいさつ

 男性の平均寿命が伸びたからといって、五十歳も過ぎれば、さすがにもう確実に人生を折り返している。これはもう帰り道だ。ある時そう思ったら、不思議なことに、ほっとした。
 なんていうか、もう、できないことはできないってはっきり言っちゃっていいんだっていう安心感みたいな感じだろうか。もう残りの時間でやりたかったこと全部などできっこないし、それはもはや自分の能力のせいじゃないんだから仕方ない、と思ったら、変なプレッシャーから逃れて体から力みが抜けたっていうか。やれることとやれないことの範囲も見えたことだし、そのうえで、その中のどれをいくつ、死ぬまでにやれるかっていうことなんだなと。それはどれを選ぶのも自由だし、自分のやりたいことだって全部はできないんだから、人に頼まれたことだって、嫌だったら「ごめんね。俺、それできないや」って素直に言っちゃっていい。
 残りの時間が少なくなったというのに、逆に心は自由になった。人生の帰り道に感じるのは落胆じゃなくて、逆に「じゃあ、あとなにやろうか」という前向きな感情だったというのは、なんだかとっても面白い。

 ということで、人生、絶賛折り返し中!
 その「帰り道」に思うこと、を書いてみたいと思うのです。
 いや、別に思い出話や老いについてばかり書きたいわけじゃなくって、歳をとるにつれて変わっていく物の見方や感情が、自分にとってすごく面白いから。
 だって、いろんなことが、若い頃とは明らかに感じ方が違うのだ。同じ人間かよとびっくりするぐらい。いや、きっと同じ人間ではないのだろう。日々古い細胞は垢となって落ちてゆくんだから、生まれた時の成分なんて1細胞も残っていないはずだ。てことは、脳みそがまったく違うことを感じ始めても、どこもおかしくない。
 この歳になったからこそ感じられたのだろう初めての感情に出会った時、生きるって面白いなあとしみじみ思う。そしてさらに歳をとることが楽しみになる。この先自分は、どんな新しい気持ちを感じていくのだろうか。それはその歳になってみるまでわからない。帰り道は寂しくない。想像していたより心軽やかで楽しい。

 そんなわけで、帰り道を歩きながら、日々感じること、好きな街、人、家族、映画や本のこと、いろいろ書いてみたいと思っています。毎週火曜日の更新です。どうぞよろしく!

利重 剛